2011/11/21(月)映画『マネーボール』感想

2011/11/21 21:56

先週の日曜日、映画『マネーボール』を観てきました。日本シリーズに夢中で書きそびれていましたが、ようやく落ち着いたので感想を書いてみたいと思います。以下ネタバレ注意。

原作は「セイバーメトリクスを用い、いかに少ない資金で球団運営を行うか」を実話をもとにまとめた一種のビジネス書でしたが、映画ではそれを別の切り口から攻めてきました。それは「セイバーメトリクスという新しい手法で、旧来の手法に対抗する戦い」を描いたノンフィクションとしての一面です。

資金力に乏しいアスレチックスのゼネラルマネージャー、ビリー・ビーンは、「打率より出塁率を重視する」「盗塁や送りバントは無意味な戦術である」など、従来の常識を覆す評価尺度を用い、少ない資金でより効率的なチームを作ろうとします。当然、その課程では幾多の障害がありますが、それを乗り越えていって最後にはアメリカンリーグ新記録となる20連勝を達成。こうして文字に起こしてしまうとよくあるサクセスストーリーなんですが、実際に映像で観るとやはり胸がすく思いがしました。

ただ、この映画にも一つ欠点があります。それは皮肉にも「ノンフィクションであること」です。

アスレチックスはビリー・ビーンの改革により目覚ましい成績を残しましたが、リーグ優勝、ワールドチャンピオンには手が届いていません。映画とはいえあまり派手な嘘をつけないため、20連勝をクライマックスに持ってきましたが、結局、「俺たちの戦いはこれからだ!」的な微妙なまとめ方をせざるを得ませんでした。

また、映画化が少し遅すぎたという感もあります。原作の日本語訳が出版されたのは2004年。このころはアスレチックスの専売特許だった手法も、現在では多くのチームに採用されるようになり、もともと資金力のないアスレチックスはかなり苦しい戦いを強いられ、2006年を最後に地区優勝から遠ざかっています。「俺たちの戦いはこれからだ!」と言われても、「いや、お前ら勝ててねーじゃん!」と感じてしまうのです。

とはいえ、それを差し引いても魅力的なストーリーであることには変わりがありません。ストーリーのクライマックスである20連勝を決めたのは、マネーボールの象徴とも言える選手であるハッテバーグのサヨナラホームラン。この場面は結果が分かっていてもゾクゾク来ました。

野球に限らず、スポーツの世界には勝者と敗者がいて、その結果には歴然とした差があります。しかし、その結果は未来永劫続くものではありません。この映画でも、敗者の側だったアスレチックスの面々が、マネーボールという別の尺度を持ち込むことによって輝き始め、勝者の立場をもぎ取りました。この逆転劇はスポーツの魅力の一つでしょう。このようなことが起こるからこそ、ビリー・ビーンが言うように「人は野球に夢を見る」のだと思います。