2006/06/01(木)第4回『サンヨーオールスターゲーム』

2006/06/01 23:07

始まりは、少年ファンからの一通の手紙でした。

「ベーブ・ルースとカール・ハッベルが対決する。そんなゲームが見たい」

ア・リーグのヤンキースに所属するルースと、ナ・リーグのジャイアンツに所属するハッベル。リーグを代表する強打者と好投手の対戦は、ワールドシリーズでしか実現することのない、非常に可能性の低いものでした。

この投書を読んだシカゴ・トリビューン紙の運動部長、アーチ・ウォードは、ファン投票による両リーグのベストナイン同士の対戦を発案しました。これならば、地元シカゴで開催される万国博覧会の目玉イベントにもなる。ウォードはぜひとも実現したいと思い、関係者たちに働きかけました。

当初は「ワールドシリーズの価値を下げる」と反対していたコミッショナーも、熱心に賛成する選手やオーナーに押される形で開催を決定。かくして1933年7月6日、コミスキーパークにて、記念すべき第1回オールスターゲームが開催されました。結果は4-2でア・リーグが勝利。以降、戦争の影響が強くなった1945年、ストライキがあった1994年以外は毎年開催されています。

さて、日本のオールスターですが、現在のようなセ・リーグ対パ・リーグの形で実施されるようになったのは、2リーグ制になってから2年目の1951年です。ただ、メジャーリーグのオールスターを参考に、1937年から「職業野球東西対抗戦」という名目で東西対抗戦が実施されていますので、こちらをオールスターの起源と呼んでもいいかもしれません。

現在の形になってから50年以上の歴史を持つオールスターですから、過去に様々なドラマが生まれています。その一部をご紹介しましょう。

  • 1971年の第1戦(西宮球場)。セの先発、江夏豊(阪神)が今も伝説として語られる九者連続奪三振を達成しました。ちなみにこの試合、セは継投でのノーヒットノーランを達成しています。
  • 1978年の第1戦(広島市民球場)、セのギャレット(広島)がオールスター史上初の三打席連続ホームランを達成しました。また、第3戦(後楽園球場)では掛布雅之(阪神)も三打席連続ホームラン。
  • 1985年の第3戦(ナゴヤ球場)。セの江川卓(巨人)が八者連続三振を達成しました。前述の江夏の記録に並ぶかと思われた9人目、大石大二郎(近鉄)はセカンドゴロとなり、タイ記録は逃してしまいました。
  • 1987年の第3戦(阪神甲子園球場)、PL学園の同級生である清原和博(西武)と桑田真澄(巨人)の対戦が実現しました。この舞台が、彼らが大活躍した甲子園だったというのもなかなか。結果はレフトスタンドへのホームランでした。
  • 1990年の第2戦(平和台球場)。この年ファン投票1位で選出されたピッチャーは、セ・リーグ与田(中日)、パ・リーグ野茂(近鉄)の大物ルーキーでした。この二人を打ち砕いたのが両リーグの4番バッター。2回にパの4番清原和博(西武)が与田から、6回にセの4番落合博満(中日)が野茂からそれぞれホームランを放って貫禄を見せつけました。
  • 1992年の第2戦(千葉マリンスタジアム)。セの古田敦也(ヤクルト)がオールスター史上初となるサイクルヒットを達成しました。最後はツーベースで決めたのですが、余裕で三塁も狙えるタイミングだったため、わざとらしく二塁でよろめいてみせたのが印象的でした。オールスターなんだから二塁で止まっても誰も文句言わないってw
  • 2004年の球界再編騒動で「1リーグでも東西対抗でオールスターはできる」という意見に対し、1988年からスポンサーを務めるサンヨーは「東西対抗ならスポンサーを降りる」とコメント。2リーグ堅持派の喝采を浴びました。
  • 2004年の第2戦(長野オリンピックスタジアム)。パの新庄剛志(日本ハム)がオールスター史上初となる単独のホームスチールに成功。ヒーローインタビューでの「これからはパ・リーグです!」という台詞は、1リーグ化に邁進する経営陣に辟易していたファンを感動させてくれました。

1951年からの55年間で行われたオールスターゲームは144試合。通算対戦成績はパ・リーグの73勝63敗8分です。以前はパ・リーグが圧倒的に勝ち越していましたが、最近はセ・リーグが優勢なこともあり差は縮まっています。1990年以降だけ取り出してみるとセの20勝14敗4分。かつて「人気のセ、実力のパ」と言われていた時代とは状況が異なってきています。もっとも、そもそもオールスターでリーグの実力を測ること自体が適当だとは思えませんが。

ところで、インターネットでの投票が始まってから、今までのハガキによる投票よりも気軽に大量に投票ができるようになりました。その結果、組織票によって投票結果に歪みが生じるようになっています。メジャーのファン投票では数百万票獲得する選手がゴロゴロ出てくるのに対し、日本ではトップでも数十万票といったところ。組織票の影響を受けやすい環境ではあるんですよね。しかし「できる」と「やってもいい」は全く別のものなはずです。

いたずらで投票し、公式戦に出場すらしていない選手が選出される。贔屓チームの選手に無条件に投票し、結果、数の暴力でそのチームの選手が多数の枠を占める。そんな多くのスターが集うことがない、集うことができないゲームを「オールスター」と呼んでも良いものなのでしょうか。ルースとハッベルの対決が見たいという少年の想いから始まったオールスターゲーム。もう一度、その経緯と意味を考え直してみる必要があるかもしれません。

さて、今年のオールスターゲームは、第1戦が神宮球場、第2戦がサンマリンスタジアム宮崎で開催される予定です。今年もまた新しいドラマが生まれ、新しいヒーローが生まれることを期待しています。