2007/12/20(木)第94回積読消化運動
『恋空―切ナイ恋物語』読了。
賛否両論、というかブロガーたちの間ではほどんど否定されているこの作品ですが、私はとても素晴らしい作品だと思いました。上下巻で140万部売れたのも当然ですし、映画化されるのも当たり前です。
まず第一に非常に読みやすい文章で綴られていること。
別の作家さんの話になりますが、京極夏彦は文章がページを跨ぐことを嫌い、そのようなことがないように文長、段落長を調整しています。それは文庫化する際にも版型に合わせて加筆、修正するほどの徹底ぶりです。おかげで、文章量のわりには読みやすい作品に仕上がっています。
しかし、美嘉はその先を行っています。ページを跨ぐどころか行を跨ぐことすら嫌っているようで、ひたすら1行に収まる短文で綴られています。中には複数行に跨る文章もありますが、この不徹底は美嘉が文章のプロフェッショナルではなくアマチュアであることを考えれば仕方がないところでしょう。次回作には期待です。
また、文章の視点がブレまくっていて、思春期特有の心の不安定さを見事に表現しているのも素晴らしい。登場人物の視点なのか、あるいは全てを見渡せる神の視点なのかは、章、あるいは節の単位で固定しておき、その中では視点を動かさないのがセオリーです。
しかし、この作品ではそのセオリーの上を行きました。俯瞰視点で語られたかと思うと、台詞のあとには美嘉の視点になる。かと思うと突然神の視点に戻る。美嘉の心の揺れ動くさまをしっかり表現できているではありませんか。
ところで、この話は実話を元にしているということなので、作者はまだ若い方だと思うのですが、おっさん連中への配慮も忘れていません。
確かに恋空は読みやすい小説ではありますが、単行本2冊となるとそれなりの時間を取られてしまいます。しかし、この作品は一味違います。Wikipediaの『恋空』の項 *1 を見てください。そこであらすじを読めば、作品のほぼ全てを把握することができます。忙しいサラリーマンにも安心ですね。この心遣いには感動しました。
「衝撃的な結末に号泣必至!」という煽り文句に偽りはありません。あなたもぜひ買ってみてください。「こんな文章で2100円も取れるのか」「この金でQMAが21クレもできたのに!」 *2 という思いで涙が止まらないことでしょう。
【読了】
- 作者: 美嘉
- 出版社/メーカー: スターツ出版
- 発売日: 2006/10
- メディア: 単行本
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