2013/02/04(月)宮本直毅『エロゲー文化研究概論』感想

2013/02/04 23:08
宮本直毅さんの『エロゲー文化研究概論』の感想です。
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素晴らしい一冊でした。80年代から現在までのエロゲーの歴史をここまでまとめ上げたのはお見事の一言。 30年の歴史を巡る旅は、最古のエロゲーは実は光栄の『ナイトライフ』ではなくハドソンの『野球拳』であるという文章からスタート。ハドソンの野球拳ということは「わたし めぐみ よろしくね」で有名なあの野球拳ですよね。セリフもショッキングな画像もわりと知られていると思うのですが、発売日だけが正確に伝わっていなかったというのも面白いものです。ちなみに、[著者の宮本さんのブログのコメント欄](http://crusherfactory.net/~pmoon/mt/mt/mt-comments.cgi?entry_id=3175)によれば、ハドソンの野球拳よりもさらに前に『アップル野球拳』という作品があったとのこと。70年代からエロゲーがあったんだなぁ……。 80年代前半から10年以降を5年ごとに区切った本書の内容は、自分の知らない時代を知るのに役立ちますし、また、自分が知っている時代を懐かしむのにも役立ちます。黎明期から今まで30年間ずっと第一線のエロゲヲタという方はなかなかいないと思いますので、自然と一冊を複数の視点で見ることになります。 どの時代をどの視点で見ることになるのかは、いつからこの世界に入ったか、あるいはいつこの世界からドロップアウトしたかによって違ってくるでしょう。私は90年代の記述を読んでいるときに懐かしさに涙が出そうになりました。 そこにはエルフが業界の一番前を行っていた時代が描かれていました。『同級生』シリーズがエロゲーの枠を飛び越えてギャルゲーにまで影響を与えるくらいの力があった時代。単に「唯」と言えば平沢唯ではなく鳴沢唯のことを指した時代。普及し始めたインターネット上で、YU-NOの設定、世界観について盛んに議論が交わされた時代。蛭田昌人、剣乃ゆきひろが揃ったエルフに無限の夢を見た時代。 ……はいはいエルフ信者乙。 私がこのように思い入れたっぷりの感想を持ったからと言って、本書の内容まで偏っているというわけではありません。事実は事実として書いていますが、その分析に関してはあくまでも「~と思う」という立場を崩しておらず、できる限り中立を保とうとしているのはうかがえました。 もちろん、取り上げる作品の取捨選択の時点である程度の主観が入っているのは致し方ないことかと思います。しかし、この取捨選択の結果、けっこうツボにハマる作品が残っているケースもあります。 1996年、1997年あたりの作品で一番大きく取り扱われているのは当然『To Heart』になるわけですが、その次に『放課後恋愛クラブ』『放課後マニア倶楽部』にスペースを割いているあたり、「分かっている」と言わざるを得ません。この時期には『雫』『痕』『下級生』『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』『鬼畜王ランス』『Pia♥キャロットへようこそ!!』といった作品があるにもかかわらず、です。あれは二作揃ってプレイすることによりそのギャップを楽しむことができる名作でしたし、逆にスルーされる可能性の高い作品だったので、よくぞ拾い上げてくれたものだと思います。 すべての作品を取り上げているわけではないので、人によっては「なぜこの作品が取り上げられていないんだ」という思いは浮かんでしまうと思います。私もそうです。ですが、この本はあくまで「総論」。各論は各自で学ぼうではありませんか。